Jan 29, 2014

同人百迷走 第3話「カイカイキキ入社!村上隆の仕事現場 前編」


前回の続きです。 初回

同人の話がなかなか出てこないのでタイトル詐欺感が漂っております。

今回はアーティスト村上隆のアシスタント経験談となります。
2008〜2009年頃の話です。
興味がない人はちょっとわかりにくい内容かもしれません。

彼の作品や制作のスタンスについては賛否があります。
オレは彼の作品に対する憧れで就業を希望しましたが、当時の学生間でも人気があるアーティストといえば会田誠だったり奈良美智で、村上隆にはあまり良い印象を持ってない人が多かったと思います。

始めに断っておきますと、当ブログは「内部事情の暴露」ではありません。
情報としては個人的な感覚を除き、社外に出ているものしか使っていません。

あくまでもスタッフを経験した目線で見たカイカイキキの業務について感じたことや、それがどう自分の同人制作や仕事への意識に繋がったかについてお話する予定です。



・・・

就活では内定もとれず、やる気も出ず、哀れで醜いオレは怠惰な日々を送ってました。

そんな中、自分とは別の研究室にいるK君が「カイカイキキで村上隆のアシスタントをやっている」という情報を聞き、声をかけるのでした。

月に1、2度ある研究室合同の全体発表の授業が終わったときだったと思います。
チャンスだと思い、すーっと彼の隣に移動して話しかけました。

「K君ってカイカイキキでアシスタントやってるんだって!?」

K君とはその時はじめて話をしました。
カイカイキキに興味があることを自分なりに熱心に伝えました。
彼は前から自分のことを知っていたらしく「今、アシスタント募集しているから僕から上司に紹介してみるよ」と言ってくれました。

やったーーー!
オレも村上隆作品に関わることができるぞ〜〜〜!

この時点でカイカイキキに受かった気満々になるわけです。

行くことが決まってもいないのに勤めていた会社のアルバイトをすぐ辞めました。
後任に大学の友人を紹介し、2週間ほどで引き継ぎ終了。
送迎会まで開いてくれました。
とてもいい環境でしたが憧れの現場で働くことの方が価値が大きかったです。
これは最良の選択の一つとなりました。


少ししてK君から連絡が来ます。
元麻布にあるカイカイキキのオフィスで面接をすることになりました。


会社は広尾駅から徒歩10分ほどの所にあります。

有栖川宮記念公園という大きい公園が近所にあり、周りには緑が生い茂ってます。
この場所がすごく気に入ってお昼の休憩にはよく散歩してました。

大使館も多く、職員やその家族などがよく外を歩いてます。
日中のカフェなどは外国人の方が日本人より多く見るかも知れません。
コンビニには海外の食べ物も置いてあります。

有栖川宮記念公園
亀とか泳いでいる 平和


愛育病院の前を通過してカイカイキキに到着します。
行った人はわかると思いますが、この会社がめっっちゃめちゃ綺麗なんですね。

構造自体もそうですが、とにかく掃除が行き届いている印象でした。
就業してからわかったことですが、清掃員はもちろん雇っているのですが社員の人もしっかり掃除をするのです。

オフィスの地下はギャラリーになっています。
時々自身の作品や他のアーティストのイベントや展覧会をやってます。
基本的に無料なので是非一度は足を運んでみてください。(宣伝)


Tan Tan Bo Puking - a.k.a Gero Tan, 2002
18歳頃、初めて見て衝撃を受けまくった作品。死ぬまでに実物を見たい


・・・

白で囲まれた個室に通され後のオレの上司となる人がやってきました。
怖そうな感じでした。


上司「K君から聞いてるかも知れないけど、うちは本当に厳しいから」

オレ「はい、大丈夫です」

上司「うちは世界一のブランドを作ってるから、その辺の覚悟はして」

オレ「はい、大丈夫です」

上司「やめるなら今だから、よく考えて」

オレ「はい、大丈夫です」

・・・

それから数日経ってアルバイト内定の連絡をもらいました。
時給は以前のアルバイトよりも数百円下がりました。

でもOK

ちなみにオレの他にもう一人入る予定らしかったですが、面接の時に怖くなってしまって辞退したそうです。


それから少しして初の出社日となりました。
オフィスで自分の席に案内されます。

当たり前ですが村上隆が普通に仕事をしているのですね。
緊張のあまり吐きそうになりました。
簡単な仕事の手順をK君から説明され実行していきます。

すると

「なにやってんだ!!!!!!!!」

いきなり怒鳴り声が聞こえます。
村上さんがスタッフに対して注意してます。

凄まじくピリピリした雰囲気ですが他のスタッフは普通に仕事をしてます。
もちろんこれは日常茶飯事で、オレもその内慣れていきます。

席でPCの初期設定などをいじっていると肩を叩かれます。

振り返るとそこには村上さん、その人がいました。


「村上です、よろしくお願いします」


本来なら入社した自分から挨拶しないといけないところです。
初っぱなから手続きに失敗した感じで色々テンパってしまいました。
ぎこちなく自己紹介をして「頑張りますのでよろしくお願いします」みたいなことを言った記憶があります。

前職との違いは色んな所で感じます。

PCもwinではなくMac(しかもPro!)でillustratorも当時最新版のCS3です。
デスクもイスも数十万〜百万円の高級品でした。
アルバイトでこの環境。

勤務開始当初のオレの職務はカイカイキキ所属のアーティスト青島千穂の作品アシストでした。青島さんが描いた原画をillustratorを使い、トレスします。
それのデータをさらに青島さんがディレクションしていくのです。
元絵が水彩風のタッチなのでどの線を拾うかがアシスタントの技量となります。

漫画家のアシスタントなんかをしたことがある方はわかるかも知れませんが、社内のクォリティやレギュレーションが厳格でとても合理的な作業フローが組まれてます。

最初のデータを提出した何日か後に青島さんから「トレス綺麗で助かります」と言われたことは凄く嬉しかったです。

トレスなんて誰でもできる、と思う人もいるかもしれません。
今でもillustratorはよく使うのですが、トレスやパス編集は全ての基本です。
単純そうに見えて奥が深く、初心者と上級者のデータは見ればすぐにわかります。
正確に使いやすいデータを作るということを初めて覚え、心がけました。

カイカイキキで覚えたillustratorは以後、同人はもちろん色んな場面で役に立ちました。

illustratorCS3
前のバージョンに比べ、アピアランス関連が大幅に拡張されたイメージ

ちなみに自宅では長いことCS4を使ってます



高水準のブランドを制作、維持していく事は本当に大変なことです。

実は2008年はアシスタントと同時変更で同人サークル「百化」の企画を進めてました。
当然かもしれませんがこのときの業務から多大な影響を受けております。

例えば一つのタスクを決めるに際しては担当者を明確にします。
「いつ」までに「なに」をやるかをはっきりとさせておくのです。
懲罰は特にないのですがお互いの認識をきちんと言語化しないと現場は混乱します。
会社では当然だと思いますが同人にもこのルールを適用してました。

同人なんだから気楽に、適当に〜と考える人もいるかもしれません。
しかしその結果失敗した場合、先にあるものは醜い責任のなすりつけ合いです。

人材が不足する中でもコツコツ進めていく大切さも学びました。
カイカイキキには何人か凄まじいキャリアを持つエリートがいますが多くはオレのような無知な学生でした。

今なら少しわかりますが、学生を使って仕事を回すのは大変なのです。
ツールや絵の具の使い方もそうですが、マナーだったり、コミュニケーションだったり、優先順位の組み立て方だったり、、広い意味での仕事のルールがわからない。
そんな彼らを動員して、しかも世界のブランドを作るのだから現場にストレスがないわけがないのです。

もちろん専門性の高い仕事で外注に出すケースもあります。
しかし絵画は内制するしかないのです。

理由は単純でカイカイキキレベルの工房を有する事業所はほとんどないからです。
これは世界レベルでもそうでしょう。
ですからここでの就労経験はとても貴重なのです。


カイカイキキでの毎日はとても刺激的で楽しいものでした。
出社日数は増えていきましたが制作ができる喜びの方が大きかったです。
(こう書くと社畜的な〜、言わされて〜とか見えるかも知れないですが、自分で意識している限り素のテンションで語ってます。)


そんなある日のことです。
チームの上司が自分たちアシスタントを呼んでこう言ったのです。


「アートバブルが崩壊しました」



次回「カイカイキキ入社!村上隆の仕事現場 後編」へ続く


<連載目次>