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Feb 2, 2014

同人百迷走 第5話「同人イベント初参加で1000部を発行!!実売数はわずか50部」


前回「カイカイキキ入社!村上隆の仕事現場 後編
初回「おかえり僕のサブカルたち

今回はいきなり生々しいグラフを貼ってみました。
(絵を描くのがめんどかったとかそういう事では断じて、断じて、)

同人即売会「コミティア106(2013年10月20日開催)」内での
公式売り上げアンケートになります。


出典元:ティアズマガジン107(こちらのグラフをまとめなおしてます)

平均値:39.14冊
中央値:17冊
アンケート回収数:1019サークル
アンケート回収率:28.6%

中央値:販売冊数回答サークル825のうち、中間順位413位のサークルの販売数

自分のサークル百化がコミティアに参加していた時期の販売数は、
全盛期(2012年春)で600部超です。

恐らく上位売り上げサークルは個人誌が多いと思うので、
創作で合同誌となるとなかなか健闘していると思います(が、どうでしょう…?)
初回に書いた「中堅弱」という自己評価はコミケでの二次創作を含んでのものでした。


さて、今回から百化同人制作編となります。
自身の経験を踏まえつつ創作同人制作に関しての意見を書いていこうと思います。

始めに書きましたが、本企画は作品自体のクォリティもそうですが売り上げや知名度、強力な組織を作る方法などといった実践論になります。

人気のサークルを作る事に関しては作画初心者や同人未経験者などは致命的な欠点にはならないと思います。

もちろん既にネットや商業で知名度がある人は同人でも有利でしょう。
しかし重要なのは"今なにを持っているか"ではなく"今なにを欲しがっているか"です。

イラストもヘタだし同人も作ったことない……

それでもやりようによっては
1年で壁サークルになることも不可能ではありません。


……とかいいつつも今日は初めて同人誌を作った時のしょっぱい話になります。




合同誌を作ろう!


デザフェスから少し時間が経ったオレは創作同人を始めることになります。
同人制作は個人より集団の方が自分に向いていると考えてました。
いわゆる合同誌ですね。

この辺の経緯は次回記事に書きます。

合同誌ということで制作はまずメンバー集めから始まります。
絵描きの友達も少なかったオレはSNSを活用しようと考えました。
そこで当時から賑わっていたpixivに目をつけたのです。


2008年4月。
百化初の創作合同誌「祭(まつり)」の企画がスタートします。
百化初の同人誌「祭」24P 缶バッジ付き:1000円 通常版:800円
発行部数:1000部 現状の在庫数:10〜50部(書店委託分が把握できず)
参加者:1047、dabble、miki_0nekoにほへshirakabasimemoge、虎硬
我ながらよくこんな表紙を描いて売れると思ったものだ


とにかく凄い本を作りたかったのです。
賑やかな雰囲気を出したかったのでイラストの全体テーマを「祭」にしました。

個性とクォリティと相性を重視して作家を探します。
絵柄は関係なく、面白そうな人や企画に賛同してくれる人に声をかけます。
pixiv経由で8人を誘い、嬉しい事に全員が快諾してくれました。

原稿料などありません。

お礼は各自に本を10冊ずつ献本という形になりました。
売り上げは今作と次回作の制作費にあてられます。
このあたりのルールは後ほど改訂されていきます。

ほぼ全員が初のコンタクトとなりました。
オレ含め全員が同人初体験です。
さらにいえば参加メンバーは当時まだあまり有名ではなかったのです。


ほとばしる制作意欲


スケジュールがよくわからなかったのでイラストのオーダーを早い段階にしました。
入稿締め切りの2ヶ月前を原稿の締め切りにしてます。

2008年12月。

メンバーから次々に完成度の高い原稿が送られてきます。

参加者は全部で9名でしたが編集やデザインは全て自分で行いました。
自宅のプリンタで見本を作ったり、順番を考えたりしました。
これはとても楽しい仕事になります。

百化「祭」より simeイラスト


欲深な発行部数

同人誌の発行部数に関しては様々な意見があります。

最初はコピー誌10部で様子見、、
オフセットであれば50〜100部程度、、

参加者の知名度にもよりますが初参加で50部はかなり勝負していると思います。
一番上のグラフを見てもわかるとおり
コミティアの中央値が17部ですから、20部売れればなかなかのサークルです。

と。

今ではその程度の常識は理解しているのです。
しかし当時のオレは違いました。

初めての同人、初めての集団制作、初めてのオフセット印刷、、、
まさにランナーズハイ。
これはギャンブルなど大金を賭ける時に陥る心理です。
今思えば冷静でなかったかもしれません。

百化の場合、先述の通り80部は献本で使います。
販売を考えるとこの時点で最低200部程度の発行が条件となります。

200か、300か、頑張って500か…?

悩んだあげく欲深いオレは1000部発行を決めました。
1000円で完売すれば売り上げは単純計算で90万円以上です。

本気で売れると考えていました。

「祭」は24Pフルカラーのオフセット印刷です。
表紙は特色の銀も使用しています。

印刷代の21万円は当時、半年かけて蓄えたバイト代でした。

印刷所は「祭」に関してはデータが残ってないので残念ながらわかりません。
(奥付に記載する習慣がなかったです)
ただ、ネットで見つけた安い所だったと思います。

直接お店まで行き、入稿方法や予算の相談をして
メールでデータを入稿しました。
見本も自宅で印刷してデータのDVDと一緒に郵送します。

しかし印刷についての理解がなく、何度か電話をもらい、データを修正しました。


販促におけるオマケ戦術

百化「祭」は1000円で売りたかったので、フルカラー+特色とはいえ
B5で24Pと薄いので売るためのフックが必要だと考えてました。

そこで思いついたのは缶バッジ同封することでした。
デザフェスで缶バッジが一定のニーズがあると考えたので試してみたのです。

さらに最初の100部にシリアル番号を押印し、銀の帯を着けました。
だめ押しとばかりポストカードも2枚つけます。

それらを全てクリアパックに詰めます。
銀の帯も神保町の竹尾のショールームで選んだ
特殊な紙を一枚一枚カッターで切ったものなので
100部とはいえそれなりの手間がかかるのです。

イベント1ヶ月前に自分のサイトで告知を出しました。
1000円の本が100部売れれば10万円なので最低ラインの確保に努めます。


いざ当日!搬入?委託?なぁにそれ?

さて、Xデーがやってきます!

初のサークル参加は2009年2月のコミティア88となりました。

今思えば凄まじく愚かなのですが、
ヤマトなど運送会社を使うという発想がありませんでした。

つまり献本を除いた残りの900部を一人で手搬入したのです。

1000部刷るなら百歩譲ってまだいい。
それを一度のイベントで売ろうというのはおかしい。
しかも手搬入など狂気の沙汰。

会場に着いたときにすでに疲労困憊してました。
売り子はまだ知り合ったばかりのshirakabaがただ一人来てくれました。

当時のオレの心理状態としては

「900部完売は難しいけど、悪くて500部、良ければ800部は売れるかなo(^-^)o」

……といった脳天気な具合でした。

最初はデザフェス時代からの知り合いや自分のサイトや
pixivを見たという方がぼちぼち買ってくれました。
それもほんの10分ちょっとで客足が途絶えます。
昼頃にはほとんど動かなくなり、どんどん雲行きが怪しくなります。

結果はタイトルの通りです。


時間と予算と労力と、、、
何よりもメンバーの素晴らしい努力は実売数50部という結果に幕を閉じました。


悔しさと申し訳なさ

16時のイベント終了の合図を聞くやサークルには凄まじく気まずい空気が流れました。
オレとshirakabaは微妙な空気の中で打ち上げもなくそのまま別れ、帰宅します。

帰りも手搬出でしたので在庫の850部をカートに乗せ、
階段はそれを背負って上り下りしました。

様々な罪の意識がのしかかっているようで
色んな人への申し訳なさでいっぱいになりました。

実家の押し入れにぎゅうぎゅうにそれを詰め、布団に入って唸り声を上げました。


無茶苦茶悔しかったです。


何かを売ったことがある方はわかると思いますが、お金の話だけではないのです。
作品は本当に労力をかけて作ります。
完成度にも自信が出てきます。

事実「祭」に寄稿してもらった原稿はどれも素晴らしかったのです。

しかしそれが売れないとなると、
作品やコンセプトそのものを批判されているような気がします。

それは良い絵を仕上げてくれたメンバーに対する冒涜だと考えてました。
自分が許せませんでした。

反芻しながら考えるのです。

なにがなんでも在庫の850部を売ろう
そうでなければこのサークルの価値はなかったことになってしまう

売り上げの代わりに手に入れたのはハングリー精神でした。

クォリティさえ上げれば本は売れると考えていたので色々なことを振り返ります。

そもそもどうして同人をはじめたんだっけ、、、
何に憧れて本を作ろうと思ったんだっけ、、、

ぐるぐるとした意識の中でそれまでの記憶が蘇ってきます。


次回「これからは同人誌の時代、そう考えていた時期がオレにもありました」へ続く


<連載目次>