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Mar 9, 2014

同人百迷走 第12話「同人誌の書店委託 初めてのイロハ」


前回「仲良し同人サークルほど崩壊しやすい!?

せっかく本を作っても売れなければ制作を継続させ続けることは難しいです。
今までは制作についての考えを書いていきましたが、
今日は同人誌の委託販売についてのお話です。

イベントで同人作家と話していると書店委託や通販に抵抗がある方が
少なからずいるように思います。
たしかに自分の本を第三者に預けることに不安を覚えることはあるかも知れません。
しかし委託書店や代行業者を上手に利用することは、
あなたの作品をより多くの人達に伝えるチャンスにもなるのです。

今回は委託のメリットや自分がわかるかぎりの各書店の特徴などを
ざっくりと書きつつ販売についての考えをまとめていこうと思います。




同人誌を買うための3つの方法



はじめに、お客さんの目線から同人誌を買う方法を考えていきます。

1 イベントで買う
2 通販/ダウンロード販売で注文する
3 書店で買う

主にはこの3つになります。
これはサークル側から見ればそのまま「売る方法」に直結します。

イベントとはコミケやコミティア、サンクリなどの同人誌即売会のことです。
熱心なファンはイベントで同人誌を買いたいかもしれません。
いち早く新刊を読むことができ、送料やマージンがない分値段も安いです。
作家に余裕があれば直接お話するチャンスもあります。

通販は当日イベントに来られない場合や買い逃した本があった時、
わざわざ会場に足を運ぶのがめんどくさい場合によく利用されます。
主に通販サイトから注文し、数日後に発送されます。
送料や手数料がかかるので直接イベントで買うよりも割高になります。
最近では買ったその場ですぐ読める「ダウンロード販売」も増えてきています。

書店は同人誌をゆっくり鑑賞したり買い物をするにはうってつけの環境です。
仕事帰りにふらっと同人誌専門店に寄ってお買い物、、、
買うつもりはなかったのに気付けば何冊も!そんな事は少なくないはずです。
もちろん狙っていた本を買う場合もあり、イベントに足を運ぶことと比べれば、
時間的なコストも交通費も安く済みます。
ジャンルごとに作品がまとまっているのも便利です。


「内製」と「委託」どっちがお得?


今度は売り手の目線で考えていきます。
同人誌の販売は「内製」「委託」二つの選択があります。

「内製」は自分で場所を借りて直接お客さんに作品を販売することです。
コミケでスペースに座り、同人誌を販売することはこれにあたります。
通販の場合はサークルのサイトを立ち上げ、
注文があったお客さんに直接作品を発送します。
こちらは「自家通販」ともいいますね。

「委託」は外部業者やサークルに作品を預かって貰い、
販売と発送を代行してもらう仕組みです。
手数料が卸値の20〜30%ほどかかります。

内製のメリットは売り上げをほぼ100%占有できることにあります。
書店委託の多くは2〜3割ほどマージンが発生します。
他には発送時のパッケージを凝りたい場合などは自分で管理する方が良いでしょう。
もちろん「他人に自分の作品を扱わせたくない!」というのもまっとうな理由です。

委託の一番のメリットはとにかく作業を丸ごと委託できることにあります。
例えば造形作品など点数も少なく扱いがデリケートな商品であれば、
自家通販などの内製で管理した方がより良いサポートを行えるかもしれません。
しかし本など発送部数が100部を超えてくるとその作業は馬鹿になりません。

依頼があった住所を記入し、包装、振り込みを確認して発送……

文字にする簡単ですが実践するのは難しいのです(体験者は語る)。
まずお客さんへの対応です。
メールのやりとりも迅速にしなければなりません。
もちろん振り込み後の発送で何週間も待たせるのは論外でしょう。
これを個人で多数こなしていくのはなかなか至難の技です。


委託の時間的なメリット



発送作業にかける手間は膨大です。

住所や振り込み確認〜郵便局での発送。
一度の発送を一括で出来れば多少は短縮できますが、
そう都合良くはいきません。
メールでのやりとりを含めて考えると1点あたり10分〜1時間は覚悟しましょう。

さらに買い手からすると個人でのお金のやりとりはなかなかの手間です。
売る側からするの銀行の口座振り込みは楽なのですが、
ネット振込もまだ十分認知されているとはいえず、
わざわざATMまで足を運ばせるのは不親切です。
代引きでの発送はお互いに面倒ですし余計に手数料がかかります。
クレジット対応は個人にはまだまだハードルが高いです。

ちょっとしたことでトラブルが起きる可能性もあります。
全て自分で行うのは非常にリスクが高いのです。

単に時間と手間を考えるなら手数料を払ってでも委託した方が
明らかにコスパは良いと思います。

たしかに手数料で100円、200円、、と引かれると手取りは下がります。
それ故、委託はイベントでの価格+マージン料を販売価格とするのが一般的です。

買い手へのサービスとしてイベント価格と通販を一律にする場合もあります。
自分のサークル百化で「センタプル」という本を作ったときは一律にしてみました。
元値が200円だったということもあり、利益ほぼゼロの企画となりました。

商業っぽいパケ作りたいよね〜ww
という軽ノリで作った本

ちなみに百化の場合、イベント販売と書店委託の売上比率は2:1くらいです。
ものにもよりますが1000部刷った本の場合、300部くらいは委託で売れます。
他のサークルも程度の差はあれ、大体こんなもんかな〜と思います。


書店委託で販売数アップ


書店委託としてのメリットは手間を省くだけではありません。
売り上げについても貢献してもらえる可能性があります。

委託店はマーケティングのプロなのです。
つまり預かっている同人誌が売れなければ彼ら自身の首が絞まります。
それなりに死ぬ気で作品を売ってくれるでしょう。

自分の作品が人気サイトに取り上げられる可能性もあります。
これはやはり書店を通した方が掲載される確立が上がるでしょう。
有名どころではアキバblogですね。
こちらに紹介されるとものによっては千部単位で書店から発注が来ることもあります。

圧倒的エロ広告率……ッッ

メロンブックスや虎の穴など大手書店の場合は「買い切り」で注文が来ることもあり、
制作者が了承すれば数百万単位のお金が手に入る事もあります。

同人で一攫千金を狙う人はこれからも出てくるのでしょうが、
現環境においては書店は大いに利用すべきだと考えます。

流入のインフラが個人とは比べものにならないのです。


委託と買い切りの違い


少し説明が前後してしまいました。
委託と買い切りについての違いについて簡単に説明します。

委託:一時的に預かって貰い、売れた分だけお金をもらう
買い切り:即金で本を数十〜数千部書店が買う

委託の場合は作品をあくまでも書店が預かるという形です。
毎月ごとに売り上げを集計し、決められた方法で作家に売り上げが支払われます。
売り上げが落ちてきた本は作家に返却されます。

買い切りの場合は書店が作品を直接買うという形です。
作家にとって非常にメリットがあります。
書店がリスクを一気に引き受けるのでこちらは売れない心配は無用です。
なんで書店が本を買ってくれるかというと、
販売店にとって在庫の枯渇は大きなダメージだからです。
明らかに売れるであろう作品は身を切ってでも確保しにいきます。
先行投資といっても良いかもしれません。
もちろん数千部単位の買い切りはよほど作家に信用がないと厳しいでしょう。


押し入れ在庫とはオサラバだ



書店に本を委託することになった場合は現物を発送します。
同人誌は在庫を家に置いておくのが地味にストレスです。
部屋を圧迫する物理的なストレスもそうですが、精神的にも来るものがあります。

イベントで売れなかった本はとりあえず書店に回して置くことは、
そんな問題の解決にもなるでしょう。
もちろん返本される可能性もあるので発行部数は慎重に考えた方が良いです。


書店委託の審査とは


書店からオファーが来る場合を除き、
最初に委託を希望する時は審査が必要になるケースがあります。

つまり「委託お願いします」と申し込んでも、
「はいどうぞ」とすぐにOKが出るとは限らないということです。

先にも書いたように書店は売る事に命がけなので、
表では「あなたの作品を置かせてください!」とは言っていても
実際のところ売れなさそうな同人誌は相手にされないこともあります。
お店のスペースは決まっているので全ての本を置くわけにはいきません。

今述べたのはクォリティの話ですがそれ以前のチェックもあります。

当然ですが公序良俗に反するものは扱いが厳しくなってきてます。
特に最近は都条例のこともありエロ本の局部の修正などがそれにあたります。

ここ2年くらい新規委託をやっていないのでオレの知識は少し古いのですが、
審査のハードルはお店によりけりという感じです。


超個人的書店レビュー


以上の事を踏まえて個人的に各書店のふわっとした印象を書いていきたいと思います。
そこまでディープに関わっているわけではないのであくまでも肌感です!


コミックとらのあな(虎の穴)



なにかと話題の会社です。
営業は熱心で一度でも委託するとイベントではほぼ挨拶に来ます。
有名なだけあって委託後の売り上げはそれなりに良いです。
「買い切り」に関してはそこそこ堅調な印象です。
委託の審査は厳しめです。
在庫の管理は厳しく、数ヶ月経って売れゆきの落ちた本は返送されます。


メロンブックス



虎の穴と肩を並べる大手同人書店です。
委託の審査はかなり厳しく、例えばpixivランカーでもはじかれることはあります。
しかし一度審査を通過すると売り上げはかなり良いです。
買い切りもなかなか素晴らしく数千部単位のオファーもあるでしょう。
一度火がつくとかなりの速度で売れていきます。
在庫の管理は当然厳しく、売れゆきの落ちた本は返送されます。


恵文社バンビオ店


京都にお店を持つ恵文社の同人系の販売部署です。
店長が情熱的な方で多くの作家と交流があります。
いわば創作系の老舗のようなところです。
ここの審査って実際どんな感じかよくわかりません。
仕入れを入念にジャッジしているようで、
店頭に並んでいる作品はかなりレベルが高いです。
売り上げは正直そこまで多くないですが、コアなファンが多く集まるお店なので、
ここで扱っているような作家が好きなら持ち込みにいっても良いかも知れません。


コミックジン



こちらも比較的創作、サブカル寄りの書店です。
審査はそんなに厳しくないと思います。
売り上げはまぁまぁです。やはり都内に店舗があると強いですね。
創作系の買い切りはどこもなかなか難しそうです。


アリスブックス



創作やニッチジャンル中心のオンライン専用の書店です。
ケモノや人外エロをトップバナーに置くサブカルっぷり。
審査はかなりゆるい印象ですが、サイトのクォリティは他に比べて高いです。
在庫管理のポータルサイトが充実しており、
他の書店もこのレベルまで上げて欲しいと個人的には思います。
売り上げはやはり最近の会社ということもあり、そこまで高くないです。
通販のみで店舗がないこともあり、売り上げは作品次第という感じです。


BOOTH



pixiv発の通販委託サイトです。
驚くべきはマージンが0円なところ。審査もありません(驚愕)。
ダウンロード販売も可能で、手順が非常に容易です。
売り上げとしてはアリスブックスレベルです。
リリースが去年12月と間もないのでまだまだデータ不足ですね。
その内BOOTH単独のレビュー記事作りたいです。


Amazon



言わずと知れたビッグデータ、史上最強の通販サイトです。
委託は内容の審査云々ではなくコード取得などの手続きが必要です。
百化は代行業者である密林社さんにお願いしてます。
Amazonは手数料が非常に高く、5〜6割は覚悟しましょう。手取り少ないです。
売り上げはなかなか安定しており、イラスト集はわかりませんが、
書評系などマニアックな本であればAmazonが一番売れてくれるでしょう。


DLsite



ダウンロード販売のみのサイトです。
マージンは3〜7割と価格によって差があります。
利率を良くしたいなら価格設定を上げる必要があります。
審査は公序良俗に反しない限りは通過できます。
売り上げ的にはある程度は出ますがまだまだ本の方が多いです。


以上!

個人的な感想で恐縮ですが各書店/サービスの印象でした。
どれも実際に取引した経験があるので適当なことは書いてないはず、です。
他にも書店の評判や実例はあるので興味があれば探してみてはいかがでしょう。

何にせよ委託をするときはお店のことをよく調べることが大事だと思います。
特に最近は税率も上がり、価格設定も変更されてます。
古いデータをあてにせずに最新のものを細かくチェックしていくのが良いでしょう。

まとめ


ざっくりではありますが委託、通販についての考えを書いていきました。
個人的には手元に在庫を置くくらいならガンガン委託しよう!という感じです。
もちろん書店が問題を起こすケースもあるので、取引相手は選ぶべきです。

・・・

そして1ヶ月以上にわたってお届けしたこの企画も今回でひとまず最後になります。
拙い箇所も多かったと思いますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
個人的に不足していると思った部分などは以降、不定期で更新していきたいと思います。

今更ながら前半の自分語りは余計かなーと思ったり。
推敲が足りないな〜って思うところもあったり。
いずれにせよもう一度見直してできる限りわかりやすい形でまとめます。

要望、ご質問やご感想などあればメールやTwitter(@anofelus)宛に
コメント頂ければなにかしらリアクションします。


皆様の良き同人ライフを祈って!




<連載目次>

第0話「おかえり僕のサブカルたち
第1話「DESIGN FESTAで作品を売る……2年経っても赤字
第2話「就職活動、HAL研究所の最終面接でやらかす
第3話「カイカイキキ入社!村上隆の仕事現場 前編
第4話「カイカイキキ入社!村上隆の仕事現場 後編
第5話「同人イベント初参加で1000部を発行!!実売数はわずか50部
第6話「これからは同人誌の時代、そう考えていた時期がオレにもありました
第7話「同人誌の在庫は悪である
第8話「在庫800部を抱えつつ次回作を企画、発行部数はもちろん…
第9話「同人誌の在庫は財である
第10話「同人サークルの解散理由は『女』と『金』←これマジ?
第11話「仲良し同人サークルほど崩壊しやすい!?
第12話「同人誌の書店委託 初めてのイロハ」

書いてる人

虎硬 / Toraco

イラストとデザイン、たまに文章を書きます。

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